歯は、私たちの日常生活において重要な役割を果たしています。咀嚼はもちろん、発音や美しい笑顔を作るためにも不可欠です。しかし、様々な理由で歯を失うことがあり、その結果として部分入れ歯が必要になることがあります。

特に、数本しか自分の歯がない場合の部分入れ歯は、お口の中で動きが出やすく、食べる度にカタカタするなど安定感のない入れ歯になり易く、固定感のある入れ歯を作製する事が技術的にとても難しく、良い部分入れ歯の選択は非常に重要です。

今回は、大きい範囲の部分入れ歯について、その種類別に特徴を詳しくご紹介します。

部分入れ歯の種類

部分入れ歯には大きく分けて

  • 残っている歯に金属のバネを掛けて固定するクラスプタイプのもの:クラスプ義歯
  • 入れ歯全体がプラスティックの様な樹脂で出来ていて、弾力のある樹脂を歯に引っ掛ける事で固定するタイプのもの:樹脂製義歯
  • 残っている歯に磁石のパーツを付け、義歯の裏側に磁石をつけて、磁石の力で入れ歯をお口に付けるタイプのもの:磁性アタッチメント義歯
  • テレスコープ入れ歯の様に残っている歯に内冠、入れ歯本体に外冠を付けて総入れ歯の様に顎全体をカバーして固定するタイプのもの:テレスコープ義歯

これら3種類に大別できます。

それぞれの入れ歯にはメリット、デメリットがありますので、ご自分にあったタイプの義歯を選択する為の参考にして下さい。

入れ歯の適応と選択基準

部分入れ歯を選択する際には、残っている歯の状態や咬合力、夜間の食いしばりやブラキシズムの強さ、顎の骨の状態(骨の形が痩せている、骨隆起が大きいなど)を考慮する必要があります。また、日常生活での快適さや、審美的な(見た目)要望も重要な選択基準となります。

上記の①―④の入れ歯には、それぞれのメリット、デメリットがありますので、ご自分にあったタイプの義歯を選択する為の参考にして下さい。

それぞれの義歯のメリットとデメリット

クラスプ義歯

金属クラスプ(バネ)の入れ歯

一部の金属のバネは保険治療で適応になっている為、日本では一番広く浸透しているタイプの入れ歯で、保険治療で適応になっている義歯の場合は、治療費用が安価であることが最大の特徴です。しかし、このタイプの義歯にはデメリット面も多く、残っている少数の歯にバネを引っ掛けて、入れ歯をお口の中へ固定するのですが、部分入れ歯の面積が大きいと、バネを掛けている歯に入れ歯がぶら下がる様になり、入れ歯の安定感が得られずカタカタ動く、噛めない、バネを掛けている歯が入れ歯にゆすられるので、残っている歯が直ぐにグラグラしてきて長持ちしない、バネが金属製の為、他の人に入れ歯をはめている事が分かってしまう…といった特徴があります。

樹脂製義歯

ノンクラスプデンチャー、スマイルデンチャー、コンフォートデンチャー…このタイプの入れ歯は、残っている歯に入れ歯を引っ掛けると言う点で①のクラスプ義歯と同様のやり方で義歯をお口の中に固定する方法です。

残っている歯の根元の歯肉部に、弾力性のある歯肉色の樹脂で入れ歯を歯に引っ掛ける為、他人からは入れ歯をはめている事が分かりにくいです。金属のバネが他人から見える事に抵抗感がある方には、こちらの義歯の方が見た目は良いです。

しかし、残っている歯の数が少なく部分義歯の面積が大きい義歯の場合、①の特徴と同様に樹脂のバネを残っている歯に義歯を引っ掛けているだけなので、噛む度に入れ歯が動く、残っている歯に負担が強くかかるので、直ぐに歯がグラグラしてくると言った事は起こってきます。特に樹脂製の中には一部柔らかい、弾力性のある樹脂を使用した義歯もあり、このタイプの樹脂はバランスボールの様に、義歯で噛もうと思っても咬合力が加わると、その弾力性により義歯が歪んで力が逃げる為、よく噛めません。

の一部のクラスプ義歯しか保険適用にはなっていないので、このタイプの義歯は自費治療になりますが、自費の義歯の中では比較的安価でできる義歯です。

しかし、樹脂だけでできた義歯の耐久年数は概ね2−3年と短く、長期間経過すると、樹脂の弾力性が無くなる、脆けると言った事が起きてきます。

磁性アタッチメント義歯(磁石入れ歯)

磁石の入れ歯は、義歯のデザインによっては①や②よりも動きにくい義歯である為、最近では多く知られる様になってきた義歯です。

また、一部は保険適用になっているので、保険適用の義歯の場合は治療費用も安価になります。義歯の構造は、残っている歯は神経の治療をしてある様な短い歯であることが条件となり、短い歯の上部に小さい磁石のパーツをくっ付けておきます。

義歯の内面にも磁石をくっ付けて、残っている歯と入れ歯が磁石でくっついている仕組みになっています。

見えるところには金属が使っていないので、見た目に入れ歯だと言う事は分かりにくい為、審美的にも良いです。

デメリットとしては、磁石を使用しているので、長期間使用により磁性の耐久性が落ちると義歯の安定感に影響がでます。また、金属アレルギーの人の場合は治療前にアレルギーテストが必要になる事があります。

入れ歯の密着度に関しては、入れ歯全体より先に磁石の部分が先に接触する為、義歯とその下の歯肉粘膜の間に隙間が出来て、入れ歯自体の密着度はでません。その為、細かい食べかすが義歯の裏面に詰まり易いです。

テレスコープ義歯

総義歯とレジリエンツテレスコープ義歯

テレスコープ義歯はドイツで開発された入れ歯です。ドイツでは噛みごたえのあるパンやお肉を好んで食べているので、硬い物でもよく噛める義歯が推奨されています。ひとえにテレスコープ義歯と言っても、いくつかの種類がありますが、残っている歯の数が少ない場合のテレスコープ義歯は、レジリエンツテレスコープ義歯が適応となります。他の入れ歯では、歯が残っている部分は義歯をくり抜いて、歯にバネをつけて固定しますが、レジリエンツテレスコープ入れ歯の場合は、数歯残っている歯も含めて顎全体を義歯の中に取り込んで覆い被せます。そうする事で、総入れ歯の様な形態になり、入れ歯がお口の中で密着する仕組みになっています。義歯が歯肉と密着する事で、他のタイプの義歯と比べて一番フィット感がよく、見た目も良くなります。

義歯の一部に金属は使用しますが、人から見える部分には金属は使わない為、見た目に義歯をつけている事は分かりません。使用金属は歯科用の貴金属を使用していますので、金属アレルギーをお持ちの方には事前にパッチテストを行い、安全確認を行なっていますが、殆どの方でアレルギーが出た事がない様な安全な金属を使用しています。

ただし、これでもアレルギーが出る心配がある方には、メタルフリーの治療を検討するか、コバルトクロムを使用するなどの工夫が必要かと思います。コバルトクロムは、本来人体の中に存在する金属成分となりますので、アレルギーが出にくいかと思います。

テレスコープ義歯の治療では、患者様のお口の状況やアレルギーの有無などにもアレンジして治療を行うことが可能です。

この治療のデメリットとしては、使用材料が高価で、高度な治療技術が必要となる為、治療費用は他の義歯と比べて高価にはなります。

しかしその分、治療後はこれらの義歯のタイプの中では一番長期間の使用に耐えられる強度と適合性があります。