「よく噛むことは体に良い」という言葉は、よく聞耳にします。

しかし、なぜ噛むことが重要なのか、その科学的な理由をご存知ですか。

実は、歯は直接骨に植っている訳ではありません。歯と顎の骨の間には「歯根膜」という薄い組織が介在し、この「歯根膜」は脳の健康を守る重要な役割を担っているのです。

噛むという日常的な行為が、認知機能や記憶力に深く関わっている驚きの事実をお伝えします。

歯根膜から脳へ届く生命信号

歯根膜は、歯の根の周りを覆っている厚さわずか0.2ミリほどの組織です。

歯根膜はごく細い繊維状の組織で、歯と歯を支える顎骨とは、この無数の繊維状の被膜により繋がっています。この歯根膜は歯を骨と繋いでいるだけでなく、神経センサーとしての役割も担っています。

私たちが食べ物を噛むたびに、それぞれの歯に伝わる咬合力を歯根膜のセンサーが咬合圧の刺激として受け取ります。

その刺激は電気信号に変換され、脳へと送られます。

この信号が脳の血流を増やし、脳細胞を活性化させることが科学的に証明されています。

特に、記憶を司る海馬という部分への血流が大幅に増加します。

よく噛んで食事をする人ほど、記憶力や学習能力が高いという研究結果も報告されています。

子供の場合、しっかり噛むことで脳の発達が促され、学習能力の向上につながります。

高齢者では、噛む機能を維持することが認知症の予防に直結しています。

失われる機能、取り戻せない価値

歯を失うと、歯根膜も一緒に失われます。

インプラントや入れ歯で、歯の欠損部位を見た目や噛む力では補えても、歯根膜の機能は再現できません。

つまり、脳への刺激という最も重要な役割が失われてしまうのです。

実際、歯を多く失った高齢者ほど、認知症の発症リスクが高いことがわかっています。

歯が20本以上残っている人と比べて、歯がほとんどない人の認知症リスクは約2倍になるという調査結果もあります。

さらに深刻なのは、この機能喪失が連鎖的に進行することです。

歯を失うと噛みにくくなり、柔らかい食事ばかりを選ぶようになります。

噛む回数が減れば、さらに脳への刺激が減少します。

また、噛みにくくなると、食事の楽しみが失われ、栄養バランスも崩れがちになります。

体力や免疫力が低下し、全身の健康状態が悪化していきます。

こうした負の連鎖は、一度始まると止めることが困難です。特に高齢の方がこの様な状態に陥った場合、筋力や精神力の低下の影響もあり、健康状態を引き上げるのは、容易ではありません。

歯根膜を守る根本的アプローチ

歯根膜を守るということは、歯そのものを守ることに他なりません。

虫歯や歯周病で歯を失えば、歯根膜も失われます。

だからこそ、予防的なケアが極めて重要になります。

定期的な歯科検診とクリーニングで、虫歯や歯周病の悪化を初期段階で発見できます。

早期に対処すれば、歯の耐久年数も上がり、悪化速度を遅らせる事ができます。

歯周病の進行を止めるためには、日常的なセルフケアと合わせて定期的な歯科医院での専門的な歯周病ケアが効果的です。

プロフェッショナルケアでは、歯と歯茎の間に潜む細菌を定期的に除去し、歯肉の炎症を改善する効果があります。

保険診療でカバーできる範囲もありますが、最近では、自費治療の範囲ではありますが、より効果が期待できるクリーニング方法や治療の選択が可能です。

脳の健康を守るという視点で考えれば、歯根膜を保存することの価値は計り知れません。

一度失った歯根膜は、治療では再生する事が出来ないので、歯を失わないための予防処置はとても重要です。

毎日の習慣が脳を育てる

よく噛むことを意識して食事をしましょう。

一口30回噛むことを目標に、ゆっくり食べることが推奨されています。

歯ごたえのある食材を積極的に取り入れることも効果的です。

根菜類、玄米、ナッツ類など、自然と噛む回数が増える食品を選びましょう。

毎食後の丁寧な歯磨きで、虫歯や歯周病を防ぎます。

フロスや歯間ブラシも活用し、歯と歯の間の汚れも確実に除去します。

3〜6か月に一度の歯科検診を習慣にすることで、重症化リスクを避け、疾患を早期に発見できます。

痛みが出てから受診するのではなく、定期的なメンテナンスで継続的に歯の健康を守っていくことが大切です。

生涯の認知機能を支える選択

噛むことで得られる脳への刺激は、金額では測れない価値を持っています。

記憶力、判断力、コミュニケーション能力…

これらすべてが、健康な歯と歯根膜によって支えられています。

今ある歯の健康維持が、将来の認知機能を守ることに直結します。

予防的なケアと早期治療で、生涯にわたって自分の歯で噛み続けられる環境を整えましょう。