入れ歯が外れる・動くのはなぜ? ―部分入れ歯が安定しない原因と入れ歯はどこで支えられているのか、その構造は―

「食事をすると、入れ歯が動く」
「硬いものを噛むと、入れ歯が外れそうになる」
「入れ歯がズレるので、思い切り噛めない」
「何度調整しても、しっくりこない」
「入れ歯安定剤がないと不安」
このようなお悩みはありませんか?
せっかく作った部分入れ歯なのに、食事のたびに動いたり、外れそうになったりすると、食べることそのものがストレスになってしまいます。
また、
「入れ歯だから、多少動くのは仕方がない」
と、半ば諦めて使っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、入れ歯が動いたり外れたりするのには、きちんとした理由があります。
そして、その原因を考えるときに重要になるのが、
「入れ歯の外れる、沈み込む…動きをどうコントロールするかが、入れ歯の支え方」
という考え方です。
今回は、なぜ部分入れ歯が動くのか、なぜ特に奥歯のない入れ歯は不安定になりやすいのか、そして湘南歯科医院が大切にしている「義歯の支え方」について、できるだけ分かりやすくご紹介します。
入れ歯が動くのは「入れ歯だから仕方がない」のでしょうか?
まず知っておきたいのは、口の中の筋肉は口を開いた時と閉じた時では筋肉の形が変わるので、口の中の形は変化しますし、噛む時に入れ歯を押す力が働けば、入れ歯は歯肉に食い込む力が働きます。
その為、入れ歯はこの様なお口の中の動きによる形や力の変化に対応する必要があります。
食事をすると、入れ歯にも大きな力が加わります。
そのとき、
- どこで支えるのか
- どの方向に動こうとするのか
- その動きをどう抑えるのか
- 噛んだ力をどこで受け止めるのか
によって、入れ歯の動き方は変わってきます。
つまり、
この様なお口の中の形の変化や噛む力の負荷の有無の違いの両方に適応していない入れ歯ほど「動きやすい入れ歯」になるのです。
部分入れ歯の安定を考える「3つの役割」
部分入れ歯の安定を考えるときには、専門的には、
支持・把持・維持
という3つの考え方があります。
難しく聞こえますが、簡単に言えば、
支持=入れ歯が噛んだときに、必要以上に沈み込まないようにすること。
把持=入れ歯が左右や前後に揺れないようにすること。
維持=入れ歯が上に浮いたり、外れたりしないようにすること。
この3つがバランスよく働くことで、入れ歯の安定が考えられます。
なかでも「支持」は、入れ歯を安定させるための土台になる重要な要素です。
なぜ、噛むと入れ歯は沈むのでしょうか?
ここが「入れ歯が動く理由」を理解するポイントです。
口の中には、天然の歯と歯ぐきがあります。
天然の歯は、歯根膜という薄い繊維状の皮膜を介して骨の中に植っています。歯根膜は歯に加わった噛む力がダイレクトに骨に伝わらない様にする為のクッションの役割をしています。
一方、入れ歯の床部分の下には、歯ぐきの粘膜が乗っています。粘膜は柔らかく、弾性に富んだ組織です。
そのため、噛む力が加わったとき、歯と歯ぐきでは「沈み込み方」が違います。
学術的には、歯の沈み込みは約0.05mm、歯ぐき側は約0.2mm程度とされる説明があります。
数字だけを見るとわずかに感じるかもしれません。
しかし、入れ歯のように長さのある構造では、この小さな沈み込みの違いが、義歯の傾きや回転につながることがあります。
イメージすると、
硬い床の上に立っている状態と、柔らかい絨毯の上に立っている状態
の違いに近いものです。
硬い床はほとんど沈みません。
一方、柔らかな絨毯では、力をかけると足が少し沈みます。
入れ歯も、歯の上で支えられる部分と歯ぐきの上で支えられる部分では、力を受けたときの動きが違うのです。
特に「奥歯がない部分入れ歯」は動きやすい
この問題が分かりやすく出るのが、奥歯がない部分入れ歯です。
奥歯を失った場合、義歯の後ろ側には天然歯による支えがありません。
その状態で噛むと、残っている歯を支点として、義歯の後方が沈んだり、持ち上がったり、回転するような動きが起こる場合があります。
このような動きは、
「噛みにくい」
「入れ歯がズレる」
「歯ぐきに当たって痛い」
「硬いものを避けるようになった」
といった悩みにつながることがあります。
つまり、
奥歯がないから入れ歯が悪いのではなく、その欠損をどのように沈み込みを抑える設計にするかが重要なのです。
入れ歯が動くと、残っている歯にも負担がかかることがあります
部分入れ歯では、残っている歯を支えとして利用します。
これは歯を失った部分を補うために必要なことですが、支えとなる歯には義歯を介して力が加わります。
入れ歯が大きく動いたり、回転したりすれば、その動きに伴って支えとなる歯に負担がかかる場合があります。
日本補綴歯科学会誌に掲載された北海道大学の研究でも、部分入れ歯の支えとなる歯について、咬合力を負担するという力学的な要因や、支台装置周囲の清掃状態などの衛生学的な要因が、残存歯の予後に関係すると考察されています。
そのため、
「入れ歯が外れないか」だけではなく、「残っている歯に無理な負担がかかっていないか」
まで考える必要があります。
入れ歯安定剤を使っているから大丈夫?
入れ歯安定剤は、義歯の使用を補助する方法の一つです。
しかし、
「安定剤がないと外れそう」
「毎食後、安定剤が必要」
という状態なら、安定剤だけで解決しようとするのではなく、
「なぜ入れ歯が動いているのか」
を確認することも大切です。
義歯の適合、形、咬み合わせ、支え方、残っている歯との関係などに原因がある場合は、そこを見直す必要があります。
安定剤で一時的に使用しやすくすることと、義歯が安定するように設計することは、同じではありません。
「支え方」を考えるリジッドサポートという考え方
ここで、少し専門的な話になります。
部分入れ歯の設計には、
「リジッドサポート」
という考え方があります。
難しそうに聞こえますが、簡単に言えば、
残っている歯と歯ぐきの両方を利用しながら、噛んだときの力をできるだけ全体に分散し、義歯が動きにくいように考える設計思想
です。
クインテッセンス出版の歯科用語解説では、リジッドサポートは、支台歯と顎堤粘膜から得られる支持を利用して支持・把持を確立し、支台歯と義歯床下の顎堤への咬合力の配分を考える設計として説明されています。
また、1968年にドイツのKoerberによって提案されたコーヌスクローネ・テレスコープシステムが、リジッドサポート形式による代表的な設計の一つとされています。
つまり、
「どうやって外れないようにするか」だけではなく、「噛んだ力をどう受け止めるか」まで考える
ということです。
テレスコープ義歯という選択肢
湘南歯科医院では、このように噛む力をどの様に分散するか、それによって残っている歯に過度な力の負担がかからない様にする…つまり、「動きにくい入れ歯」というだけでなく「残した歯の保護」も考慮し、治療後も長く安定した状態を保つ為の義歯治療として、ドイツ式のテレスコープ義歯をご提案しています。
テレスコープ義歯は、残っている歯に「内冠」という土台を作り、義歯側に組み込んだ「外冠」と組み合わせる二重冠構造を利用した取り外し式の部分義歯です。
一般的なクラスプ式部分入れ歯とは異なり、金属のバネを歯に引っかけるのではなく、内冠と外冠を組み合わせて義歯を支えます。
そのため、
「入れ歯をできるだけ安定させたい」
「残っている歯を利用した義歯を考えたい」
「金属のバネが見えることが気になる」
「入れ歯も残っている歯も長持ちさせたい」
という方にとって、とても良い選択肢だと思います。
単にテレスコープ義歯と言っても、いくつかの種類があり、適応症が異なります。
治療前には必ず、残っている歯の状態、歯周病、むし歯、歯の位置、咬み合わせなどを検査して、適応を診断することがとても大切です。
テレスコープ義歯の研究から分かっていること
テレスコープ義歯については、長期的な経過を調べた研究もあります。
北海道大学病院で行われた研究では、2003年から2020年までの診療記録をもとに、631名、1,427床の部分床義歯を対象として、15年にわたる長期観察が行われました。
その中で、補綴装置そのものの生存率は、
テレスコープ義歯:84%
リジッドクラスプ義歯(強固に繋いだ設計のクラスプ部分入れ歯):66%
一般的なクラスプ部分入れ歯:34%
という結果でした。
群間には統計学的な有意差が認められています。
この結果は、テレスコープ義歯の長期的な使用を考えるうえで興味深いデータです。
しかし、ここで注意したいことがあります。
テレスコープ義歯にも「注意点」があります
同じ北海道大学の研究では、支えとなる歯について、テレスコープ義歯を使用した群でトラブルが起こるリスクが高くなる要因も確認されています。
研究では、欠損隣接歯の生存率そのものについては群間の有意差が認められませんでしたが、欠損隣接歯のトラブル未発生率については有意差が認められ、テレスコープ義歯がトラブルのリスク因子の一つとして抽出されています。
これは非常に重要なポイントです。
テレスコープ義歯の特徴である「しっかりとした連結」は、義歯を安定させるうえでメリットになり得る一方、支えとなる歯については注意深く管理する必要があります。
つまり、
「テレスコープ義歯だから絶対に安心」ではない。
ということです。
だからこそ、テレスコープ義歯を選ぶ場合にも、残っている歯の状態をきちんと診査し、義歯を設計し、装着後も定期的に確認していくことが重要になります。
「作って終わり」ではなく、メインテナンスまでが義歯治療
義歯を長く使っていくためには、作製時の設計だけではなく、その後の管理も重要です。
口の中は、時間とともに変化します。
残っている歯の状態が変わることもあります。
歯ぐきや顎の形が変化することもあります。
義歯が摩耗したり、咬み合わせが変化することもあります。
特にテレスコープ義歯のように、残っている歯を支えとして利用する義歯では、
「義歯を見る」だけではなく、「義歯を支えている歯を見る」
ことが欠かせません。
毎日の清掃と、定期的な歯科医院でのチェックによって、義歯と残っている歯の状態を確認していくことが大切です。
湘南歯科医院が大切にしていること
上記の様に、一般的なクラスプの入れ歯と比較して、テレスコープ義歯は長期安定性に優れ、義歯が動きにくく安定しているのですが、治療でこの様な良好な結果を得る為には、治療前の診断によって、どの様な治療計画にするのかがとても重要です。
まず、
現在、どの歯が残っているのか。
その歯はどのような状態なのか。
歯ぐきや顎はどうなっているのか。
現在の咬み合わせはどうなっているのか。
どの歯を何本、義歯の支えとして利用するのか。
こうしたことを診査・診断した上で、患者様に合った治療方法を考えます。
テレスコープ義歯が適している場合には、その構造を活かして、
「残っている歯をどのように使うか」
「義歯にかかる力をどのように受け止めるか」
を考えながら設計していきます。
そして、当院が大切にしているのは、機能だけではありません。
「しっかり噛める」だけでなく「自然な口元」も大切に
義歯は毎日使うものです。
だからこそ、
「外れにくい」
「噛みやすい」
だけでなく、
「何も気にせず笑えること」
も大切だと湘南歯科医院では考えています。
特に前歯は、人工歯の大きさ、形、位置、傾き、歯と歯の間隔などによって、口元の印象が変わります。
湘南歯科医院では、人工歯を全て同じに決められた位置に並べるのではなく、患者様のお顔立ちや表情、口元全体とのバランスを考えながら、人工歯の排列を行っています。
目指しているのは、
「キレイな入れ歯ですね」ではなく、
「キレイな歯並びですね」と言われる入れ歯治療です。
つまり、当院が考える義歯治療は、
「噛めること」と「自然な口元」の両方を考えること。
そして、
「これから先も残っている歯をできるだけ大切にしていくこと」
です。
こんな方は、一度ご相談ください
現在、
「入れ歯が動いて食べにくい」
「硬いものが噛めない」
「食事中に入れ歯が外れそうになる」
「何度作り直しても、合わない」
「入れ歯安定剤が手放せない」
「残っている歯をできるだけ大切にしたい」
「金属のバネが見える部分入れ歯は避けたい」
「テレスコープ義歯について詳しく知りたい」
というお悩みがある方は、
一人ひとりの患者様の状態に合わせてカスタマイズできる入れ歯治療を
ぜひご検討ください。
まとめ|入れ歯が動くなら、「なぜ動くのか」を考える
入れ歯が外れる、動く、ズレる、噛みにくい。
こうした悩みには、義歯の適合だけでなく、
支え方、咬み合わせ、残っている歯との関係、噛んだときの力のかかり方
など、さまざまな要素が関係しています。
部分入れ歯の安定には、
「沈まない」
「揺れない」
「外れない」
という3つの視点が必要です。
そして、その考えのベースとなるのは、義歯をどこで支え、どのように力を受け止めるかという設計です。
テレスコープ義歯については、長期的な使用成績を示した研究がある一方、支えとなる歯について注意が必要という研究結果もあります。
だからこそ、
「どの入れ歯が一番良いか」ではなく、
「自分の口には、どのような義歯の設計が合っているのか」
を考えることが大切です。
湘南歯科医院では、残っている歯や歯ぐき、咬み合わせなど、お口全体の状態を診査・診断した上で、テレスコープ義歯を含めた最善の治療方法をご提案しています。
「入れ歯が動くのは仕方がない」
「もう年齢的に仕方がない」
と諦めてしまう前に、
今の入れ歯がなぜ動くのか。
残っている歯にどんな力がかかっているのか。
自分に合った設計の入れ歯はないのか。
一度、考えてみませんか?
次回は「テレスコープ義歯の二重冠構造」について
次回は、いよいよテレスコープ義歯の仕組みをさらに詳しくご紹介します。
「内冠」と「外冠」とは何なのか?
なぜ金属のバネを使わずに義歯を安定させられるのか?
一般的な部分入れ歯と比べると、どこが違うのか?
テレスコープ義歯を初めて聞いた方にも分かるように解説します。
湘南歯科医院では、ドイツ式テレスコープ義歯を中心とした自費義歯治療について、残っている歯や歯ぐき、咬み合わせなど、お口全体の状態を診査・診断した上で、その方に合った最善の治療方法をご提案しています。
